先天性心疾患
・先天性心臓病(先天性心疾患)とは生まれた時に、心臓や血管に何らかの問題があることをいいます。
頻度はおよそ100人出生に対して1人とされています。
先天性心臓病(手術介入時期別)には、非常に多くの種類がありますが、その多くは手術が必要となります。
病気の種類により、症状や手術時期、手術方法(術式)は様々です。
・総肺静脈還流異常症(TAPVD)
・完全大血管転位症(TGA)
・大動脈離断症(IAA)、大動脈縮窄症(CoA)(複合)
・左心低形成症候群(HLHS)
・心室中隔欠損症(VSD)、肺高血圧(PH)
・肺動脈バンディング術(PAB)
(単心室症、完全型房室中隔欠損症など)
・体肺動脈シャント(セントラルシャント、BTシャント)
(ファロー四徴症、単心室症など)
・動脈管開存症(PDA)
・総動脈幹症(Truncus arteriosus)
・乳児期僧帽弁閉鎖不全症(MR)など
・グレン手術(Glenn)(単心室症)
・完全型房室中隔欠損症(Complete AVSD)
・ファロー四徴症(TOF)など
・フォンタン手術(Fontan)(単心室症)など
・心房中隔欠損症(ASD)
・部分型房室中隔欠損症(Partial AVSD)
・部分肺静脈還流異常症(PAPVD)など
・成人先天性心疾患(ACHD)手術
先天性心疾患は、生まれつき心臓に病気がある状態です。その頻度は比較的高く、全出生の1%程度(100人に1人)とされています。先天性心疾患は、疾患の種類が非常に多く、症状なども多様です。そのため、一度の手術で根治可能な疾患や複数回の手術で段階的に根治を目指す疾患、機能的単心室として大きく血液の流れを転換する必要のある疾患など、手術方法や手術時期も疾患、症状により様々です。
当施設における先天性心疾患に対する手術の歴史は古く、1969年以降九州における先天性心疾患に対する外科治療において中核としての役割を担ってきました。当施設では先天性心疾患手術を年間150例前後行っており、60-70%は1歳未満の新生児、乳児期手術です。当施設における先天性心疾患手術の特徴として
などが挙げられます。
図1. 正中小切開
図2. 右後側方切開
図3. 腋窩切開
1.心室中隔欠損症
心臓の右心室と左心室の間にある「心室中隔」と呼ばれる壁に、生まれつき欠損孔が開いている疾患を心室中隔欠損症といいます。本疾患は代表的な先天性心疾患の一つで1000人に3人の割合で出生するとされており、治療を必要とする先天性心疾患の約20%を占める疾患です。欠損孔の場所や大きさにより、症状は軽い場合から心不全を伴う重い場合まであり一様ではありません。呼吸が荒く回数が多い,ミルクや食事をとる量が減り体重が増えない,元気がない,汗をかきやすい等の心不全症状がある場合は乳児期早期に手術を行うことが一般的です。全身状態によっては乳児期早期に肺動脈絞扼術(姑息手術)を施行し、全身状態の改善や成長を待って二期的に根治手術を目指す場合もあります。
図4.心室中隔欠損症
2.心房中隔欠損症
心臓の右心房と左心房の間にある「心房中隔」と呼ばれる壁に、生まれつき欠損孔が開いている疾患を心房中隔欠損症といいます。先天性心疾患の約6~10%を占める病気で、男女比1:2で女性に多い事が知られています。正常な血行動態では、肺で酸素を取り込んだ血液(動脈血)は左心房から左心室へ流れ込み、そこから全身へ送り出されます。心房中隔欠損症の場合は、動脈血の一部が欠損孔を通って左心房から右心房に流れ、再び肺循環に入ってしまいます。右心房や右心室の負担が増える疾患です。
図5. 心房中隔欠損症
3.ファロー四徴症
心室中隔欠損、肺動脈狭窄、右室肥大、大動脈騎乗の四つの特徴を持つ先天性心疾患です。全身から心臓へ還流してくる静脈血は、肺動脈を含む右室流出路狭窄が存在するため右室から肺には流れにくく、右心室の上に跨っている大動脈に流れやすくなっています。そのため肺を循環する血液量が少なく、静脈血が全身に流れてしまうため全身の血液中の酸素濃度が不足してチアノーゼ状態(皮膚や粘膜が紫色になる)となります。一般的には乳児期早期に体肺動脈シャント術を先行し、肺動脈と体格の成長を待って根治手術を行います。根治手術は、心室中隔欠損パッチ閉鎖(心室中隔欠損孔を人工布を用いて閉じる)と右室流出路拡大(右心室の異常筋束を切除し出口を拡大+肺動脈弁の交連切開や弁付きパッチ/導管による再建)を行います。
図6. ファロー四徴症
4.機能的単心室症
本来二つある心室(右室/左室)のどちらかが低形成であり機能する心室が一つしかない疾患を総称して機能的単心室症といいます。主な疾患として三尖弁閉鎖症、心室中隔欠損を伴わない肺動脈閉鎖症、内臓錯位症候群に伴う不均衡型房室中隔欠損症、左心低形成症候群などが挙げられます。解剖学的に心室を二つに分けて心内修復を行うことは不可能な疾患群であり、機能的修復のため段階的な手術介入が必要となります。新生児期もしくは乳児期早期に肺血流調整のための手術(肺動脈絞扼術もしくは体肺動脈シャント術)を行い、条件が整えばグレン手術(上大静脈を肺動脈に吻合する)を行います。最後に2-3歳前後でフォンタン手術(人工血管を用いて下大静脈を延長し肺動脈に吻合する)を行うことで全身から還流してくる静脈血はすべて肺に流れ、肺から心臓へ戻ってきた血液はすべて体へ駆出されることになります。全身の静脈圧によってのみ血液は肺動脈に流れる循環になりますので、肺動脈が十分に成長しており血管抵抗が低く保たれていることが手術の条件となります。
図7. 単心室症
先天性心疾患は疾患の種類が非常に多く、症状や結構動態も多様です。
上記以外の疾患に関しても患者さんの疾患/病態に合わせ詳しくご説明いたします。
成人先天性心疾患とは、小児期の手術介入後に成人期に到達した先天性心疾患患者さんのことを指します。(未加療の方や遺残病変のある方も対象となります)年間約9000人の先天性心疾患の患者さんが成人するため、現在ではその患者数は50万人を超えているとされています。成人先天性心疾患の患者さんの3分の1は中等度以上の重症度を有しており、さまざまな続発症に対する治療が必要となります。成人先天性心疾患に対する外科治療は、成人分野の様々な診療科との連携が必要不可欠であり、かつ成人/小児心臓外科医同士の協力も必要となる施設の総合力が問われる分野です。様々な先天性心疾患が対象となりますが、近年多弁置換など複雑な症例が増加しています。当施設では成人先天低心疾患専門外来を開設しており、症例数と手術成績において全国トップレベルの実績を有しています。成人先天性心疾患の主な手術として、
などが挙げられますが、近年の傾向として多弁置換や大動脈置換術など複雑な手術を要する患者さんが増加しています。
当科における先天性心疾患に対する手術の歴史は本邦でも古く、約50年近く前の1969年に最初の手術が行われました。以後、九州における先天性心疾患に対する外科治療において、中核としての役割を担ってきました。
小児先天性心疾患手術のうち60~70%は1歳未満の新生児、乳児期手術であり、複雑先天性心疾患に対する外科治療、0生日の開心術、2kg以下の低体重児に対する手術も積極的に行っております。大学病院の特徴として、他疾患合併等複雑疾患も多い中、良好な手術成績をおさめています。
図8. 小児主要心臓手術(ACHD, ECMO, 補助人工心臓 含む)
当科の特徴の1つとして、美容を考慮したアプローチがあります。心室中隔欠損症や心房中隔欠損症に対する閉鎖術では、正中切開創を小切開(切開線上部が乳頭のラインもしくはそれより少し上までの皮膚切開)で行うことが可能です(図1)。2018年以降は患者さんのご希望に合わせ、腋窩切開(図3)による心房中隔欠損孔閉鎖術を導入し症例数を増やしています。従来の右後方開胸(図2)による閉鎖術と比較し、切開創が小さく審美的に優れるうえ、骨格筋を切開しないため術後の回復も良い印象です。
青年期や成人の心房中隔欠損孔閉鎖術においては完全内視鏡下手術やロボット手術(ダビンチ手術)も成人チームと協力して行っています。低侵襲手術は、より高度な技術を要しますが、安全に施行することにより患者さん本人、ご家族の満足度は非常に高いものであると考えています。