九州大学病院 心臓血管外科

当科手術の特色

虚血性心疾患・その他

肺動脈血栓症

 全身から心臓へ戻ってきた血液は、右心房→右心室を通り、肺動脈を経由して肺へ流れていきます。この肺動脈を血のかたまり(血栓)で閉塞させてしまうと、肺動脈血栓塞栓症と呼ばれる状態になります。肺動脈血栓塞栓症には、突然に起こってしまう急性のものと、徐々に肺動脈が狭くなっていき、最終的に閉塞してしまう慢性のものがあります。背景には、下肢の静脈に血栓を形成する深部静脈血栓症が存在することがしばしばです。

1.急性肺塞栓症

 長時間同じ姿勢でいると、下肢の静脈が圧迫されて、血液の流れが滞り、そこに血栓ができることがあります。この下肢にできた血栓が、血液の流れにのって、心臓を経由して肺動脈にまでたどりついて、血管がつまってしまう状態です。一般には、「エコノミークラス症候群」という名前で知られています。その症状は様々で、息苦しさや胸の痛みが出現することもあれば、失神やショック状態となる重篤なものもあります。
 治療は、肺動脈を閉塞させている血栓を取り除くことです。軽症から中等症のものであれば、薬物治療やカテーテル治療により血栓を溶かす治療を選択することもありますが、重症の場合には、手術で血栓を取り除く必要があり、多くの場合は緊急手術となります。

図1.肺動脈に閉塞した血栓像(左)と手術で摘出した血栓(右)(自験例)

図1.肺動脈に閉塞した血栓像(左)と手術で摘出した血栓(右)(自験例)

2.慢性血栓塞栓性肺高血圧症

 時間をかけて、肺動脈がせまくなっていき、最終的には閉塞してしまう病態で、英語名の頭文字をとってCTEPH(シーテフ)と呼ばれます。この疾患では、肺高血圧症を合併しおり、そのために心臓へも負担がかかった状態となっています。
 治療は、閉塞または狭窄した血管を再び開通させることで、カテーテルもしくは手術が選択されます。末端近くの肺動脈の病変にはカテーテル治療が適していますが、心臓に近い側の太い肺動脈の病変には手術でしか治療できません。手術では、体温を20度以下にまで低下させて血液の流れを一時的に止めた状態(超低体温循環停止)とし、肺動脈の内側の壁を剥ぎ取ることで、血管を再び開通させることができます。この手術を、肺動脈内膜摘除術といいます。この手術には、特殊な技術や管理方法が必要で、日本国内でも行うことができる施設は限られています。日本全体でも年間50~70例程度しか行われていない手術です。九州大学病院は、心臓外科医と循環器内科医とでCTEPHチームを形成し、患者さんの病態にあった治療法を選択するようにしています。循環器内科医によるカテーテル治療と心臓外科医による手術の両方を行うことができる数少ない施設として、適切な治療法を提供しています。

図2.肺動脈内膜摘除術により摘出した肺動脈壁(自験例)

図2.肺動脈内膜摘除術により摘出した肺動脈壁(自験例)

過去5年間(2017~2021)の治療実績

2017年2018年2019年2020年2021年
肺動脈塞栓症 CTEPH22267