九州大学病院 心臓血管外科

当科手術の特色

弁膜症

大動脈弁狭窄症における新たな手術方法

経カテーテル的大動脈弁置換術 (TAVR: Transcatheter Aortic Valve Replacement)

心臓のなかの4つの弁のうち、大動脈弁は左心室と大動脈の間にあります。通常、左心室から駆出される血液は大動脈弁を「抵抗なく」通過し大動脈へいたります。ところが大動脈弁狭窄症を発症すると、大動脈弁が動脈硬化により動きが悪くなり開かなくなるので通過障害が起こります。そのため左心室から大動脈への血液駆出が困難となり、心不全や狭心症、失神などの症状を起こし死亡へ至る危険が高くなります。近年の人口の高齢化とともに動脈硬化の割合が高くなり、この大動脈弁狭窄症が急速に増加してきています。

大動脈弁狭窄症の治療としては、通常は手術による人工弁置換術が行われています。この手術は胸部正中切開を行い、人工心肺を装着し心臓停止のうえ大動脈弁置換術をおこないますので、手術後の心臓や身体のダメージはそれ相当にありますので、本術式は、手術を乗り切れると判断される患者さんのみが対象となります。しかし、一般的には様々な理由により手術が困難と判断される患者さんが大勢おられることが知られています。例えば、高齢で体力が落ちていたり、腎不全や肝硬変などの重大な合併症をお持ちであったり、過去に心臓手術をうけているために再手術が困難であったりなど、その原因は様々です。

「経カテーテル的大動脈弁置換術」は鼠径部(足の付け根)や左肋間部(左胸)を小さく切開し、そこから小さく折りたたんだ特殊な人工弁(生体弁)をカテーテルのなかを通して大動脈弁の位置で拡張・留置することにより大動脈弁狭窄を治療します。傷が小さいことや、人工心肺を使用せず心停止も不要であることから、手術による体のダメージが極めて小さいことが特徴です。この方法は2002年に初めて人に応用されたのち、ヨーロッパやカナダを中心に今までに50,000例以上の手術実績があり良好な成績をあげています。人工弁の留置には高度な技術が必要なため、現在は、通常の手術ができない方が対象となっていますが今後ますます広がっていく新しい手術法と思われます。

日本でもこの「経カテーテル的大動脈弁置換術」が保険診療として認可できるように現在検討が進められており、近い将来に本術式が本邦で行われるようになることはほぼ確実な情勢です。私たち九州大学心臓血管外科では、認可された際にはいち早く臨床実施ができるようにすでに様々な準備を行っています。大動脈弁狭窄症のために生活の質(QOL: Quality of Life)が落ちてしまっている患者様をできるだけ早く・安全で確実な手術により治療できるように努力いたします。

当科ではそれぞれの患者様の状態に合わせて適切な治療法を提供させていただきます。「経カテーテル的大動脈弁置換術」が可能かどうかを含めての詳細につきましては、当科外来までどうぞお気楽にご相談ください。

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の詳しい紹介ページは こちら から。