九州大学病院 心臓血管外科

急患用ホットライン
0926425046

  • 病棟:0926425563
  • 外来:0926425565

当科手術の特色

弁膜症

心臓弁膜症手術

心臓には4つの弁が存在する

 心臓には4つの部屋(右房・右室・左房・左室)があり、それぞれの部屋の出口に相当する位置に「弁」が存在します。「弁」は心拍のたびに開閉し、逆流防止弁の役割を果たします。正常に「弁」が開閉することで、血液は一方通行で移動していき、全身へスムーズに流れていきます。

図1.心臓と血液循環(日本心臓財団HPより引用)

図2.心臓の4つの弁(日本心臓財団HPより引用)

「弁」の開閉の異常:心臓弁膜症

 「弁」の開閉に異常があると心臓弁膜症となり、血液の流れがスムーズにいかず、心臓へ負担がかかっていくこととなります。緩徐に負担がかかっていく場合は、長期にわたり症状のないまま病状が進行していくことがあります。構造的な異常による心臓弁膜症は、根本的には手術以外に治療方法がありません。以下に、代表的な心臓弁膜症について紹介します。

1大動脈弁狭窄症

 大動脈弁は、左室からの血液が大動脈に向けて通過する弁です。大動脈弁狭窄症の最も多い原因は動脈硬化の進行で、弁にカルシウム成分が沈着する(石灰化)ことで、弁が硬化し、開閉がスムーズにできなくなります(図3)。特に、高齢者に多く、近年急激に増加している病気です。また、動脈硬化以外にも、「先天性大動脈二尖弁」と言われる先天的な弁の構造異常により、若年者でも大動脈弁狭窄症を発症する場合もあります。

図3.大動脈弁狭窄症:石灰化した大動脈弁

図4.生体弁による大動脈弁置換術

 血液の通過障害により、心不全や失神、狭心症などの多彩な症状を呈します。一般に、症状が出現した時点で、病状は比較的進行していると考えられます。
 標準的な治療方法は、大動脈弁置換術です。大動脈弁置換術は、人工心肺を使用して心停止下に、硬化した大動脈弁を切除して、人工弁を縫い付ける手術です(図4)。
さらに、最近では、人工心肺を使用せずに弁置換を行う「経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)」が選択されることもあります。従来の大動脈弁置換術を受けることが困難と思われてきたような患者さんにも、治療をうける可能性が広がってきました。
 TAVIの詳細についてはこちら

2大動脈弁閉鎖不全症

 大動脈弁閉鎖不全症では、大動脈弁の構造異常のために左室から大動脈に駆出された血液の一部が再び左室へ戻ります(図5)。そのため十分に全身へ血液を供給できない状態となってしまいます。

図5.大動脈弁閉鎖不全症:弁尖どうしに隙間(矢印)があき逆流の原因となっている

 標準的な治療方法は、大動脈弁狭窄症と同様に大動脈弁置換術です。さらに最近は、可能な限り自身の弁を温存(修理)する術式(大動脈弁形成術)を積極的に行う方針としています。人工物を使用しない術式のため、抗凝固療法が不要であることや免疫反応などの不利益が起こりにくいと考えられます。
大動脈弁形成術の詳細についてはこちら

3大動脈弁輪拡張症(大動脈基部拡大)

 大動脈基部とは、心臓と大動脈の接続部周辺のことを指します。大動脈基部は、大動脈弁・冠動脈口・バルサルバ洞などで構成されます。大動脈基部や大動脈弁輪が拡張している場合には、拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全症が問題となったり、将来の大動脈基部の破裂の危険性が危惧されるため、手術による治療(大動脈基部置換術)をお勧めします(図6)。

図6.大動脈基部拡大:バルサルバ洞が洋梨状に拡大している(矢印)

 一般に、大動脈基部が拡大している場合には、大動脈基部置換術を行う必要があり、その際に、大動脈弁自体が病的かどうかで、大動脈弁を温存するか否かの術式が決まります。大動脈弁に大きな構造的異常がない(少ない)場合には、自己大動脈弁を残し(時には大動脈弁形成術を組み合わせて)、大動脈基部を人工血管に置換します(自己弁温存大動脈基部置換術、図7)。一方で、大動脈弁を温存できない場合には、大動脈弁を人工弁に置換し、大動脈基部を人工血管に置換します(ベントール手術)。

図7.自己弁温存大動脈基部置換術(内視鏡により観察した大動脈弁)

自己弁温存大動脈基部置換術の詳細はこちら
大動脈手術の詳細についてはこちら

4僧帽弁閉鎖不全症

 僧帽弁は、左房と左室の間にある弁で、二枚の弁尖で構成されます。二枚の弁尖は、左室側に伸びるヒモ状の構造物(腱索)でパラシュートのように引っ張られています。腱索が伸びきってしまったり、切れてしまったりすることで、僧帽弁の一部が左房側に翻転してしまい、逆流を生じさせてしまうことが僧帽弁閉鎖不全症の主な原因です(図8)。その他にも、僧帽弁輪が広がり、二枚の弁尖の接合がうまくいかないために逆流が生じてしまう場合もあります。

図8.僧帽弁閉鎖不全症:腱索断裂(矢印)による逸脱

 逆流の程度が軽ければ、症状はほとんど生じませんが、中等度以上の逆流が続くと、息切れなどの心不全症状が出てきます。
 僧帽弁閉鎖不全症では、可能な限り自身の弁の修復(僧帽弁形成術)を行う方針としています(図9)。自身の弁の修復ができない場合には、僧帽弁置換術が必要となります。さらに、最近では、右肋間小開胸による低侵襲心臓手術(MICS;ミックス)を積極的に行っています。負担の少ない手術により、手術後の回復を早めることができると考えています。

図9.僧帽弁形成術

MICS手術の詳細はこちら

5感染性心内膜炎

 なんらかの理由により血液中に侵入した細菌が心臓弁にたどり着き、弁構造を破壊してしまう病気が感染性心内膜炎です。原則、長期に渡る抗生物質による治療が必要です。しかし、感染を制御できない場合、弁構造の破壊が進み心不全症状を呈している場合、心臓弁に付着した菌塊による全身塞栓症を繰り返す場合などでは、緊急手術が必要となります。
 特に、大動脈弁輪部の感染巣が広範に及んでいる場合には、徹底的な感染巣の掻把が必要です。そのような場合には、国立循環器病センターとの連携のもと、凍結保存同種組織(ホモグラフト)を使用した術式を選択することがあります。九州大学病院心臓血管外科では3人のスタッフが組織移植認定医を取得しています。

治療実績 2016年 2017年
大動脈弁置換術(複合手術含む) 55 81
大動脈弁形成術 1 3
自己弁温存基部置換術 2 6
ベントール手術 7 13
僧帽弁置換術(複合手術含む) 11 22
僧帽弁形成術(複合手術含む) 19 43

人工弁の選択;機械弁 vs 生体弁

 人工弁には、カーボンやチタンで作られた機械弁と、ウシやブタの心臓弁や心膜を加工して作られた生体弁があります。それぞれに長所短所があり、人工弁置換術を受けられる患者さんには、事前にどちらかを選択して頂く必要があります。

1機械弁

 機械弁は、耐久性に優れており、劣化による再手術の可能性が低いのが特徴です。一方で、弁表面に血栓(凝固した血液塊)を形成しやすくなり、できた血栓が弁の開放を制限してしまったり、血流にのって脳梗塞の原因となったりする可能性があります。そのため、血栓形成を予防するために、生涯に渡るワーファリン(血液をサラサラにする薬)の内服が必要です。ワーファリンによる抗凝固療法中は、出血しやすい状態となっており、定期的な血液検査で効き具合を確認し、厳格に内服量を調節しなければなりません。

2生体弁

 生体弁は、弁表面に血栓を作りにくいため、通常は生体弁による人工弁置換術後3カ月間のみワーファリンを必要とします。その後はワーファリンの内服は不要で、機械弁に比べて出血による合併症のリスクを大きく軽減することができます。一方で、耐久性の点では、徐々に弁の構造の劣化が進むため、10~15年で再手術が必要となることがあります。

図12.人工弁の種類(左:機械弁、右生体弁)

 一般には、70才以上であれば生体弁を選択することが妥当であると考えられていますが、年齢に関わらず生体弁を選択することも可能です。人工弁置換術を受けられる患者さんのライフスタイルに合わせて人工弁を選択して頂けます。そのためには十分な説明を受けられることをお勧めします。