九州大学病院 心臓血管外科

第1回九州・沖縄地区補助人工心臓研修コース

アドバイザーご挨拶

東京都健康長寿医療センター センター長 許 俊鋭
東京都健康長寿医療センター センター長
許 俊鋭
(補助人工心臓治療関連学会協議会 前代表)

昨年、「九州・沖縄地区補助人工心臓研修コース」を塩瀬 明教授に設立して頂き、10月15日に第一回九州・沖縄地区補助人工心臓研修コースが開催され、大成功を収めました。九州・沖縄地区でも補助人工心臓治療に関わる外科医・循環器内科医・看護師・臨床工学技士を始めとする多くの関係者が地元で研修を受けることが可能となり、九州・沖縄地区での植込型補助人工心臓治療の普及推進に大きく貢献するものと期待されています。

植込型LVAD治療には補助循環治療に特化したハートチームが必要です。植込型LVAD治療は多岐にわたり、適応の決定、植え込み手術の至適タイミングの選択、植え込み手術、周術期管理、創部管理を始めとする感染予防、抗凝固療法、リハビリテーション、メンタルヘルスケア、在宅プログラム、在宅治療・管理、就労・就学支援、等々数え上げればきりがありません。これらを主体的に担うハートチームの養成を目的に、協議会は平成20年に全国主要都市を中心に補助人工心臓研修コースを設ける方針を立て、2009年に東京大学補助人工心臓研修コース(2010年から東京女子医大と共催)、西日本補助人工心臓研修セミナー(大阪大学主催)、JACVAS補助人工心臓セミナー(日本人工臓器学会大会時に開催)がスタートしました。2015年には東北大学が中心となって東北・北海道補助人工心臓研修コースが開始され、2016年に九州・沖縄地区補助人工心臓研修コースの設立がされました。これらの補助人工心臓研修コースへの参加により、植込型LVAD実施施設・実施医資格、管理施設資格および人工心臓管理技術認定士資格の取得や資格更新に必要な条件を効率的に充足することができます。協議会は特に地方で勤務しているコメディカルが資格取得条件を満たすための便宜性を重視しており、「九州・沖縄地区補助人工心臓研修コース」の設立によって協議会が当初計画した補助人工心臓研修コースの全国展開が完成したことになります。

2011年3月に連続流植込型LVADが保険償還され2017年3月までに680例の植込型LVAD症例がJ-MACSに登録されています。植込型LVAD症例は年々増加し、2016年度には158例の植込型LVAD例が登録されています。保険償還後の日本では、世界でも群を抜いた2年生存率88%という素晴らしい治療成績が達成されています。昨年10月にHeartMate IIを用いたDestination Therapy (DT) の臨床治験が開始され、2~3年後にDT適応が承認された時点では新規植込型LVAD症例数は年間300例前後になると予測されます。
植込型LVADは当初、心臓移植へのブリッジ適応(BTT)で承認されたため、一部の循環器内科医には、『植込型LVADは心臓移植のためのブリッジデバイス』といった誤った認識が生まれました。本来、心臓移植と人工心臓は協力関係にはあるが互いに独立した重症心不全治療体系であり、植込型LVADの適応をBTTのみに限定するのは世界の潮流から大きく外れています。のみならず、僅かに移植適応基準を満たせないBridge to Candidacy (BTC) 症例の移植機会を奪ってしまっている結果となっています。極端に制限された心臓移植実施環境にある日本の重症心不全治療にとって、BTC適応やDT適応を早期に承認することは患者救命に直結する再重要事項と思われますし、逆に植込型LVAD治療症例の増加が日本の心臓移植治療の普及にもつながることと思います。
植込型LVAD治療において手術・周術期管理は心臓外科医の領分ですが、それ以外の領域はむしろ循環器内科医と人工心臓管理技術認定士、理学療法士が主役となります。しかし、現在の日本ではこうした植込型LVAD症例の在宅治療・管理を担う心臓外科医以外の人材が決定的に不足しています。平成23年以降これまで7回の認定で、植込型LVAD実施施設は全国で45施設にまで増加し、一昨年始まった小児用補助人工心臓(EXCOR)治療も本年までに13施設が実施施設に認定されました。しかし、現時点でまだ21の県に植込型LVAD実施施設はなく、九州では鹿児島・宮崎の2つの県に実施施設はありません。また、全国で212名の人工心臓管理技術認定士が活躍していますが、17の県には一人もいませんし、訪問看護が可能な看護師資格を持つ人工心臓管理技術認定士は極めて少ない状況です。今後の植込型LVAD在宅症例の増加を見込めば、看護師資格を持つ人工心臓管理技術認定士の養成は急務です。更に、本年7月の人工心臓管理技術認定士認定試験からは医師(循環器内科医、麻酔科医、小児循環器内科医など)も受験可能となりました。今後の九州・四国・沖縄地域における植込型LVADハートチーム形成に必要な人材育成に「九州・沖縄地区補助人工心臓研修コース」の果たす役割に大きな期待が寄せられています。
関係者の皆さんのご尽力に心から感謝しています。