• 手術という、人生の大切な決断。最適な選択肢をあなたに。
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九州大学大学院 医学研究院
⼤動脈先進治療学講座

准教授大石 恭久

九州大学 心臓血管外科 教授
⼤動脈先進治療学講座

責任者塩瀬 明

当講座のホームページをご覧いただきまして誠にありがとうございます。
大動脈先進治療学講座は、九州大学病院心臓血管外科で培ってきた大動脈手術を基礎として、更なる治療成績の改善と新たな技術の開発を目指し、2020年に開設いたしました。 現在、大動脈瘤の治療法には大きく分けて2つ、人工血管手術とステントグラフト手術があります。人工血管手術には50年以上の歴史と実績がありますが、ステントグラフトはまだまだ歴史の浅い方法です。それぞれにメリット・デメリットはあります。
人工血管手術は、悪くなった大動脈を部分的に切除し、交換する方法です。手術を乗り越えれば長期間の安心を得ることができますが、創も大きく、体への負担は大きい治療となります。一方のステントグラフト手術は、大動脈瘤を内部から塞ぎ、瘤の破裂を予防する方法です。創も小さくて済み、体への負担は小さくなりますが、悪い部分を切除するわけではないため、長期的に経過観察を行うことが必要不可欠であり、追加治療を行うことも稀ではありません。
我々はこの2つの技術を偏りなく、真摯に磨き続けてまいりました。それゆえ患者様に最適な選択肢をお示しすることができます。また、2つの治療法の恩恵を最大限に生かした複合手術(ハイブリッド手術)の提案と治療を行うことも可能です。それぞれの患者様に相応しい治療法をチームで検討しご提案させていだだいております。
大動脈瘤や解離は突然発症し、破裂、突然死の危険性があるため、病気が発見されてから治療まで、十分な時間をかけることができないことが多い疾患です。
手術という大切な選択において、当講座のホームページをご活用いただければ幸いです。
また、外来でのご相談にもお気軽にお越しください。セカンドオピニオン外来も常時行っております。

高い次元で追求してきた、2つの技

人工血管置換術

ステントグラフト手術

だれも到達したことのない、高みを目指して

ハイブリッド手術

人工血管置換とステントグラフト、2つの方法の良いところを組み合わて行うのがハイブリッド手術です。
ステントグラフトのみでは対応できない場所や形にも対応し、人工血管置換よりも体への負担を下げることができます。
具体的には、脳に行く枝を別のところから人工血管を使って誘導し、ステントグラフトを置く方法や、大動脈のわずかな部分だけ交換し、ステントグラフトを併用する方法などがあります。

大動脈とは

我々は大動脈手術の専門家です。ところで、皆さんは大動脈ってわかりますか?大動脈は心臓から全身に血液を運ぶ通り道です。心臓の出口部分には大動脈弁があり、その頭側には心臓を栄養する冠動脈があります。そのやや上部からが大動脈です。
大動脈はまず頭側に向かい、脳と両手を栄養する3本の枝が分かれます。その枝の手前までを上行大動脈と言います。3本の分枝がある部分を大動脈弓部と言います。枝を出した後に大きくカーブし、足の方に走行を変えます。そこから横隔膜までを下行大動脈と言います。上行、弓部、下行大動脈を胸部大動脈と言います。
横隔膜から足側には、肝臓や膵臓などを栄養する腹腔動脈、腸管を栄養する上腸間膜動脈、その下には腎臓を栄養する左右の腎動脈が分かれます。横隔膜から腎動脈までを胸腹部大動脈、腎動脈から足側を腹部大動脈と言います。腹部大動脈はへそのあたりで両足に向かって分岐します。

大動脈の病気

大動脈瘤とは

大動脈の一部がもろくなり、その部分に血圧がかかることで拡大する病気です。
動脈硬化が主な原因であり、高血圧や高脂血症、糖尿病、喫煙者に多く認められます。動脈瘤は年間10%程度拡大するといわれます。風船と同じで、大きくなればなるほど簡単に膨らみます。
大きくなった結果、いずれ破裂し、突然死します。ただ、破裂するまでは症状がないことが多く、破裂する際に初めて激痛が出ます。
自分が動脈瘤を持っているかどうか知らずに破裂する方がたくさんいらっしゃいます。
レントゲンだけでは診断できないことが多いため、通常の健康診断だけでは分かりません。血圧が高い、タバコを飲む方や動脈瘤になった血縁者がいるような方はCTや腹部エコー検査などを受けられることをお勧めします。

  • 胸部大動脈瘤
  • 腹部大動脈瘤
  • 胸腹部大動脈瘤

大動脈解離とは

大動脈壁の内膜に突然亀裂が入り、動脈の壁が剥離した状態です。裂けた側の動脈壁が薄くなるため、拡大や破裂を来たしやすい状態となっています。
症状としては、突然生じ、長く続く胸背部痛が一般的です。
大動脈からは様々な枝が分岐していますが、解離によってそれらが狭窄や閉塞することがあり、様々な症状が出現します。特に心筋梗塞や脳梗塞、腸管壊死を来すと予後は不良です。
発症後48時間以内に50%の方が亡くなるとされている、大変危険で治療に一刻を争う疾患です。
診断には造影CT検査がもっとも有用です。
スタンフォード分類という分類があり、解離が上行大動脈に存在するものをA型、上行大動脈に存在しないものをB型と言い、区別しています。
A型は生命の危機が迫っているため原則緊急手術の適応です。B型では内科的治療(血圧を下げる、安静など)が選択されますが、破裂や虚血などを合併する場合は手術の適応となり、近年ではステントグラフトによる治療がよく行われています。スタンフォードA型の中には、偽腔が早期に血栓で閉塞しており、全体の径や偽腔径が小さいなどの条件を満たす場合は内科的治療が選択されることもあります。

大動脈解離
  • 急性A型大動脈解離
  • 急性B型大動脈解離

大動脈の治療法

日本胸部外科学会 全国手術成績 2018年 非解離性動脈瘤

非破裂性動脈瘤 早期死亡率 破裂性動脈瘤 早期死亡率
上行大動脈置換術 1366例 3.3% 53例 22.6%
弓部置換術 2198例 3.0% 119例 21.8%
ハイブリッド弓部(+人工心肺) 1004例 4.9% 318例 19.2%
ハイブリッド弓部(-人工心肺) 1004例 4.0% 75例 22.7%
胸腹部置換術 387例 11.4% 38例 26.3%
ステントグラフト手術 2143例 2.1% 318例 9.2%

日本胸部外科学会 全国手術成績 2018年 大動脈解離

手術数 早期死亡率
急性A型解離
上行大動脈置換術 2534例 8.6%
弓部置換術 1956例 10.1%
ハイブリッド弓部(+人工心肺) 873例 11.7%
急性B型解離
ステントグラフト手術 327例 7.0%
ハイブリッド弓部(-人工心肺) 85例 2.7%
慢性B型解離
下行大動脈置換 262例 4.6%
胸腹部置換 212例 7.5%
ステントグラフト手術 1032例 2.0%
受診当日

頂戴した画像をもとに、その時点で考えられる手術内容についての大まかなお話をさせていただきます。
動脈硬化が原因で起こる病気ですので、動脈硬化を原因とする他の疾患(心筋梗塞や脳梗塞、腎不全)などを合併していないかどうかを検査する必要があります。また、手術は全身麻酔を行った上で行いますので、肺活量が十分かどうかも検査いたします。
このような諸検査の予約を取っていきます。

検査終了後

検査結果をもとに、改めて外来受診をしていただき、個人個人にふさわしい方法を提案いたします。その際は、ご家族の同伴をお勧めします。

手術をご納得いただいてから

日程のご希望を伺いながら、手術日程の調整を行なってまいります。
また麻酔科の受診予約をお取りいたします。
手術の際は、体内に人工血管などの人工物が入ることになります。手術によって体力が落ちた際には、人工物に感染しやすくなり、この場合は命取りになります。手術の際には抗生剤(化膿止め)を用いて予防しますが、いい状態で手術を受けていただくために、手術前の虫歯治療と禁煙は必須です。ご自身の手術リスクを下げるため、必ずお守りください。

入院

手術日の2日から3日前にご入院いただきます。入院後は採血やレントゲンなどの検査を受けていただきます。手術前日には手術部位の除毛を行います。腸をきれいにするため、下剤の内服を行います。夜21時から飲んだり食べたりできません。
手術前日までに手術の説明を受け、同意書に御記入いただく必要があります。日程を担当医と調整いただき、ご家族に来院いただく必要があります。

手術

手術当日の朝、浣腸を行うことがあります。準備が整った後に、手術室に向かいます。手術の時間はまちまちですので、担当医や看護師に確認ください。
手術室に向かう際には、ご家族とともに参ります。その際待合室をご案内します。手術が終了しましたら、手術後の説明をご家族に行います。
疾患や手術内容により、集中治療室に入室する必要がある方と、一般病棟に直接戻る方がいらっしゃいます。

集中治療室

集中治療室に入る必要がある方は、麻酔をかけたまま集中治療室に向かいます。出血や心臓などの状態が安定していることを確認し、麻酔を覚ましていきます。集中治療室での治療期間は、平均2日ですが、合併症が起こると長期間となります。

一般病棟

集中治療室での治療が必要ない状態まで回復すると、一般病棟へ移動し、退院に向けてリハビリテーションを開始します。リハビリテーションが進み、CTなど術後の検査で問題がなければ退院となります。ステントグラフト手術の場合は術後約1週間、人工血管置換術の場合は約2週間での自宅退院を目指します。術後の状態によっては、自宅退院ではなく、リハビリテーション病院への転院をお勧めすることがあります。

緊急の場合

緊急の場合は、救急車で救急部に運ばれます。直ちに必要な検査をできるだけ実施し、手術説明を行ったのち、手術室に向かいます。緊急の場合は時間が限られますので、ご家族の方は直ちに来院いただく必要があります。間に合わない場合は、電話連絡でご承諾いただき、説明は手術後になります。集中治療室入室後からの流れは前述のものと同じですが、緊急手術では合併症の頻度が高いため、集中治療室への入室期間および入院期間は延長します。

手術実績

2020年 2019年 2018年 2017年 2016年
急性大動脈
解離の
緊急手術
18 14 7 13 8
上行大動脈
人工血管
置換
8 3 11 5 10
弓部大動脈
人工血管
置換
15 16 18 16 14
下行
胸腹部大動脈
人工血管
置換
5 3 4 5 2
腹部大動脈
人工血管
置換
3 2 1 3 0
胸部大動脈
ステント
グラフト
16 24 17 24 20
腹部大動脈
ステント
グラフト
24 27 9 12 19
大動脈
手術数
89 89 67 78 73

現在進行中の研究

・許可番号 2020-544
弓部大動脈手術における術式による早期成績の比較
・許可番号 29-654
破裂性腹部大動脈瘤に対する開腹手術とステントグラフト内挿術に関する全国多施設観察研究

よくある質問

●直接外来に行っても診てもらえますか?

基本的には予約をお取りいただく必要がありますが、予約なしで来院された方も、専門外来日であれば対応可能です。ただ、長くお待ちいただく可能性がありますのでご注意ください。

●入院期間はどれくらいですか?

手術予定日の2-3日前に入院いただいてます。
人工血管置換術の場合、手術後は集中治療室で治療を行い(一般的に1-2日)、一般の病棟に戻ります。そこでリハビリテーションを行い、手術後約2週間で退院となることが多いです。
ステントグラフト手術の場合、手術後は直接一般病棟に戻ります。約1週間での退院となります。

●遠方に住んでいても対応可能でしょうか?

これまでも福岡県内のみならず、東は大阪から南は鹿児島までの患者さんに手術を行なった経験があります。手術後は年に1度ほどは是非とも来院いただきたいのですが、地元のかかりつけ医と連携しながら、経過観察をさせていただいております。

●手術後の外来通院の間隔はどれくらいですか?

人工血管置換術の場合、創部が安心できる状態となる3ヶ月までは、1ヶ月ごとに来院いただくことが多いです。その後は1年ごとにCT検査などにより経過観察させていただいておりますが、一定期間問題なければ来院は不要となります。
ステントグラフト手術の場合、退院後2週間の時点で、創部のチェックをさせていただいております。その後は半年から1年ごとにCT検査などにより経過観察させていただいております。

●手術後の運動はできますか?

人工血管置換術の場合、約3ヶ月間は負担が大きい運動は控えていただいております。外来での経過を見ながら、また投薬内容や運動の内容などから個別に判断いたします。

●何歳まで手術可能ですか?

手術に関しては年齢というよりも、全身の状態によって判断いたします。基本的にはご高齢の方にはステントグラフト手術を第一に考えていきますが、私個人の例では、99歳の腹部大動脈瘤の方にステントグラフト手術を行い、問題なく終了した経験があります。

ご紹介いただく先生方へ

大動脈専門外来は、毎週月・金曜日に行なっております。
紹介状・画像などの資料をご用意の上、下記連絡先までお電話いただきますようお願いいたします。
月・金曜日以外でも対応可能な場合がございますのでご相談ください。緊急の場合は、下記ホットラインまでご連絡ください。
大切な患者様へ適切で高度な治療をご提案させていただきます。

通常の連絡先:
092-642-5508
(九州大学病院予約センター)
092-642-5557
(九州大学心臓血管外科医局)
緊急の連絡先:
080-3213-2833
(九州大学心臓血管外科ホットライン)

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