九州大学病院 心臓血管外科

当科手術の特色

心不全外科

再生医療

 虚血性心疾患で重症心不全となった患者さんに対して、ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」を用いた治療を開始致しました。ハートシートは、心筋梗塞に対する標準治療(薬物治療、カテーテル治療、冠動脈バイパス手術)にもかかわらず、心臓の機能が回復せず心不全が進行し、重症心不全(NYHA心機能分類Ⅲ以上、左室駆出率35%未満)になってしまった患者さんが対象です。
 患者さん自身から採取した骨格筋に含まれる骨格筋芽細胞を製造所において培養して増殖させた後(標準的な期間: 7週間)に、専用容器に充填して凍結保存したものをシート状に調製し、患者さんの心臓表面に5枚を移植して使用する再生医療等製品です(図8)。そのため、筋肉採取とシートの心臓表面移植と、2回の入院と手術が必要です。
 ハートシートで使用する患者さん自身の筋芽細胞は心臓の筋肉にはなりません。筋芽細胞からは臓器を保護したり、新しい血管や組織を作る助けとなる物質(サイトカイン、成長因子)が放出されます。この働きを利用して残っている心筋細胞を守り、血管新生を促進させて心不全を増悪させないようにすることがこの治療の目的です。
 ハートシートは世界初となる心不全治療の再生医療治療です。現在、九州大学病院はハートシートを実施可能な九州で唯一の施設です。九州大学病院で2症例の虚血性心筋症の男性に対してハートシートの移植を行いました。右足からの筋肉採取の手術、左側開胸下のシートの心臓表面移植の手術、どちらも順調に終了し術後経過も良好でした。カテーテル治療や冠動脈バイパス術で心不全が良くならない患者さんは対象になる可能性があります。お話を一度聞いてみたい患者さん、患者さんのご紹介を考えている医療者の方々は、九州大学病院ハートセンターにご相談して頂ければ幸いです。

図8. 患者さんご自身の足の筋肉を採取→筋肉のもとになる細胞(筋芽細胞)を培養→5枚のシート状にして心臓の表面に移植(テルモより提供)

図8. 患者さんご自身の足の筋肉を採取→筋肉のもとになる細胞(筋芽細胞)を培養→5枚のシート状にして心臓の表面に移植(テルモより提供)