九州大学病院 心臓血管外科

主な臨床研究

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術時の非選択的瘤内コイル塞栓術の効果の検証

観察研究について

 九州大学病院では、最適な治療を患者さんに提供するために、病気の特性を研究し、診断法、治療法の改善に努めています。患者さんの生活習慣や検査結果、疾病への治療の効果などの情報を集め、これを詳しく調べて医療の改善につながる新たな知見を発見する研究を「観察研究」といいます。その一つとして、九州大学病院心臓血管外科では、現在腹部大動脈瘤の患者さんを対象として、腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術時の非選択的瘤内コイル塞栓術の効果の検証に関する「観察研究」を行っています。
 今回の研究の実施にあたっては、九州大学医系地区部局観察研究倫理審査委員会の審査を経て、研究機関の長より許可を受けています。この研究が許可されている期間は、2027年3月31日までです。

研究の目的や意義について 

 腹部大動脈瘤に対する治療として、これまでは大動脈瘤を切除し、人工血管に交換する手術が行われてきました。この治療法は瘤を切除するため、確実な治療効果が望める一方で、大きくお腹を切り開き、大動脈の血流を遮断して行う手術であるため、体への負担が大きいことが問題でした。そのため、ご高齢の方や心臓や肺の機能に問題がある方の中には、手術を受けられない方々が一定数いらっしゃいます。体への負担が少ない手術方法として、人工血管と金属製ステント(バネ)を組み合わせたステントグラフトを、太ももの付け根から大動脈に挿入し、大動脈瘤を内側から塞ぐ方法が開発されました(図1)。

図1

図1

 我が国においては2006年から保険で使用できるようになり、その後急速に広まった方法で、現在では過半数を占めるようになりました。使用経験を重ねるうちに、ステントグラフト治療における様々な問題が明らかになって来ております。その一つとして、腹部大動脈瘤からの分枝(下腸間膜動脈や腰動脈)から血液が逆流すること(タイプ 2エンドリーク:図2)により瘤が拡大することがあります。瘤の拡大により破裂を引き起こす危険性が高まりますが、この逆流を制御することが、問題解決につながるのではないかと考えられます。これまで太い下腸間膜動脈や腰動脈を、コイルで直接つめること(塞栓術:図2①)の有効性を検証した研究は行われております。有効であると報告されていますが、塞栓術が難しい症例も多く存在しており、全ての患者さんに対して簡便に適応できる方法の開発が必要と考えております。
 当科では、非選択的に瘤の中へコイルをつめる(瘤内コイル塞栓術:図2②)という方法を追加することが有効ではないかと考えており、可能な症例ではこれを実施しています。この方法は、前述の選択的なコイル塞栓が困難な患者さんにも可能であり、また、患者さんにほとんど追加の負担のない方法です。今回の研究は、この方法によって術後の大動脈瘤の再拡大をどれくらい抑えられたかを検証するものです。

腹部大動脈瘤 瘤からの分枝血管(複数あり)を示すイラスト

腹部大動脈瘤 分岐血管から血液が逆流(タイプ2エンドリーク)→瘤拡大・再破裂の危険

腹部大動脈瘤 ①選択的に大きな分岐血管を塞栓→症例によっては困難。すべての血管に行うことは不可能 ②非選択的に瘤内をコイル塞栓→簡単。将来の瘤再拡大予防効果

図2

研究の対象者について

 九州大学病院心臓血管外科において2016年4月1日から2022年3月31日までに腹部大動脈瘤に対して、ステントグラフト内挿術を施行した81名を対象にします。このうちには、当科で瘤内コイル塞栓術を開始する以前に手術を受けられた患者様(59名)も含まれます。
 研究の対象者となることを希望されない方又は研究対象者のご家族等の代理人の方は、事務局までご連絡ください。

研究の方法について

 この研究を行う際は、カルテより以下の情報を取得します。

【取得する情報】
 年齢、性別、身長、体重、血液検査結果、併存疾患、薬剤治療の詳細、術前後CT画像、手術記録、術後追加治療の有無。

【情報の解析方法】
 瘤内コイル塞栓術を行った患者様と行っていない患者様で、術後に大動脈瘤の拡大やエンドリークの発生、追加治療を要したかなどに差がなかったかを調べます。その際に手術前後のCT画像を用いて、腹部大動脈瘤の大きさを測定します。術後CT画像から、術後のエンドリークの発生の有無を判断します。術後追加治療の有無の情報も利用します。それぞれの患者さんによって、体格や併存疾患など条件が異なるため、条件の違いを考慮して調整したりするために、その他の情報(年齢、性別、身長、体重、血液検査結果、併存疾患、薬剤治療の詳細)も必要となります。同時にこれらの情報の項目自体が、瘤縮小に有意に影響を与えたかどうかに関しても解析を行います。手術の際に追加した細かい手技に関しても同様に解析するため、手術記録も参考にします。術後に追加治療した場合には、これも比較の際には考慮する必要があるため、必要な情報になります。この研究によって、瘤内コイル塞栓術を行った患者さんの方が大動脈瘤の縮小程度が大きいこと、あるいは、エンドリークが発生しにくいことが証明されれば、今後、瘤内コイル塞栓術が腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術時に追加する標準的な手術として一般に認められることとなるでしょう。最終的には今後の腹部大動脈瘤治療に大きく役立つことが期待されます。

個人情報の取扱いについて

 研究対象者のカルテの情報をこの研究に使用する際には、容易に研究対象者が特定できる情報を削除して取り扱います。この研究の成果を発表したり、それを元に特許等の申請をしたりする場合にも、研究対象者が特定できる情報を使用することはありません。
 この研究によって取得した情報は、九州大学大学院医学研究院循環器外科学教授・塩瀬明の責任の下、厳重な管理を行います。

試料や情報の保管等について

【情報について】
 この研究において得られた研究対象者のカルテの情報等は原則としてこの研究のために使用し、研究終了後は、九州大学大学院医学研究院循環器外科学において同分野教授・塩瀬明の責任の下、10年間保存した後、研究用の番号等を消去し、廃棄します。

 また、この研究で得られた研究対象者の情報は、将来計画・実施される別の医学研究にとっても大変貴重なものとなる可能性があります。そこで、前述の期間を超えて保管し、将来新たに計画・実施される医学研究にも使用させていただきたいと考えています。その研究を行う場合には、改めてその研究計画を倫理審査委員会において審査し、承認された後に行います。

利益相反について

 九州大学では、よりよい医療を社会に提供するために積極的に臨床研究を推進しています。そのための資金は公的資金以外に、企業や財団からの寄付や契約でまかなわれることもあります。医学研究の発展のために企業等との連携は必要不可欠なものとなっており、国や大学も健全な産学連携を推奨しています。
 一方で、産学連携を進めた場合、患者さんの利益と研究者や企業等の利益が相反(利益相反)しているのではないかという疑問が生じる事があります。そのような問題に対して九州大学では「九州大学利益相反マネジメント要項」及び「医系地区部局における臨床研究に係る利益相反マネジメント要項」を定めています。本研究はこれらの要項に基づいて実施されます。
 本研究に必要な経費はなく、遂行にあたって特別な利益相反状態にはありません。

 利益相反についてもっと詳しくお知りになりたい方は、下記の窓口へお問い合わせください。
利益相反マネジメント委員会
  • 窓口九州大学病院ARO次世代医療センター
  • TEL092-642-5082
研究に関する情報の開示について

 この研究に参加してくださった方々の個人情報の保護や、この研究の独創性の確保に支障がない範囲で、この研究の研究計画書や研究の方法に関する資料をご覧いただくことができます。資料の閲覧を希望される方は、ご連絡ください。

研究の実施体制について

 この研究は以下の体制で実施します。

研究実施場所 九州大学病院心臓血管外科
九州大学大学院循環器外科
九州大学大学院医学研究院大動脈先進治療学講座
研究責任者 九州大学大学院医学研究院循環器外科学教授 塩瀬明
研究分担者 九州大学大学院医学研究院大動脈先進治療学講座准教授 大石恭久
九州大学病院心臓血管外科医員 西島卓矢
相談窓口について

 この研究に関してご質問や相談等ある場合は、下記担当者までご連絡ください。

事務局(相談窓口)
  • 担当者九州大学病院心臓血管外科 医員 西島卓矢
  • TEL092-642-5557(内線5557)
  • FAX092-642-5566