九州大学病院 心臓血管外科

当科手術の特色

心臓弁膜症

Ross(ロス)手術

大動脈弁の位置と疾患について

 大動脈弁は心臓の出口にあたる弁。左室からの強い圧力と大動脈圧により病気を発症しやすい。代表的には、大動脈弁狭窄症やときに、大動脈基部(根本全体)の拡大を認める。

大動脈弁・大動脈基部の弁置換術とRoss手術の違い

(*Bentall手術:人工弁付きの人工血管で大動脈基部を入れ替える術式)

機械弁での弁置換
(またはBentall手術*)
生体弁での弁置換
(またはBentall手術*)
Ross手術
自分の弁か? × × ○
ワルファリンによる
抗凝固療法
生涯必要
(出血しやすい)
原則不要
(術後3ヶ月のみ)
原則不要
(生体弁の使用があれば術後3ヶ月のみ)
弁の耐久性 高い 10-15年で約半数が壊れる
(若年者ではより壊れやすい)
良好な成績が期待
手術の複雑さ 標準的 標準的 高い
将来の再治療 主に大動脈弁
(頻度は低い)
主に大動脈弁
(劣化に伴うもの)
大動脈弁と肺動脈弁

大動脈弁と肺動脈弁はそっくりな形である

 大動脈弁と肺動脈弁は形や機能はほとんど同じ。
 ただし環境は異なる。
 ・大動脈弁は高圧系。
 ・肺動脈弁は低圧系。

Ross(ロス)手術の概説

・肺動脈弁を採取して、大動脈弁として利用(移植する)
・肺動脈弁側には生体弁などで補填
・おもに若年の方(60歳未満)に対して行われる特殊な大動脈弁置換術のひとつ

ここまでは通常の心臓手術と同じ
+
(Ross手術としての手順)

Ross手術の適応

1. 体の小さな小児患者で、適切なサイズの人工弁が使えない場合
2. ワルファリンによる生涯の抗凝固療法を回避したい場合
3. 以前に移植した生体弁の劣化により、繰り返す再手術が必要と考えられる場合
4. 若年者であること(60歳未満を想定)

(Ross手術が向かない方もいらっしゃいます)
(例)
・肺動脈弁に形態的な異常がある場合(変形や逆流など)
・移植する場所との著しいサイズの差がある場合(大きすぎる、小さすぎる)
・肺動脈壁がとても薄いなど大動脈の高圧環境に向かない場合

Ross手術の手順

(安井久喬ら:先天性心疾患手術書より転載)

Ross手術の特長(メリット)

1ご自身の弁を大動脈弁として使用できる
・血流が非常にスムーズ
2抗凝固療法が不要
 機械弁のような生涯のワルファリン治療は不要(術後3ヶ月間のみ)
3小児例では、将来の成長が期待
4長期成績が良い可能性
・生体弁での大動脈弁置換では10-15年で半数(若年患者ではより早期に)人工弁弁不全で再手術となる可能性がある
・肺動脈弁側に使用する生体弁は低圧系のため劣化しにくい可能性が高い
・条件があえば肺動脈生体弁劣化はカテーテル肺動脈弁置換術(TPVI)が可能

Ross手術の注意点(懸念点)とフォローアップの必要性

1手術難易度が高いので全国どこでもできるわけではありません
→ノウハウのある慣れた施設でのみ行うべき手術(当院での実績は十分あります)
いままでに14例のRoss手術(2026年は6月までにすでに5例実施)
年齢:平均 32歳 (8-59歳)
全員、生存退院されています
2移植したもとの肺動脈弁と血管の耐久性は術後もフォローアップ必要です
3もともとは大動脈弁だけの病気→大動脈弁と肺動脈弁の2つの弁のフォローアップが要ります
・別々の時期に再治療が必要となるかもしれない
・肺動脈に移植した生体弁への将来のカテーテル治療ができない可能性

知っておくべきRoss手術のまとめ

・手術の内容がやや複雑となります。
・移植した新しい大動脈弁部分に、拡大や弁逆流などが起こりうるので外来でチェックします。
・肺動脈側に移植した生体弁も同じくチェックしていきます。

・体力的にある程度余裕があり、Ross手術の安全性が確保される可能性が十分に高い場合にはおすすめできます
・確かに大きな手術ですが、将来にわたるメリットはかなり大きいです